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里に生かされ、暮らしを残す 移住者たちの〝地域のこし〟

長野県北安曇郡小谷村「くらして」 
住人たちのあたたかな人柄に惚れこみ、山間の限界集落に移住した二組の夫婦がこの土地で営まれてきた豊かな〝暮らし〟を次世代につないでいこうと動きはじめている。
※写真は、左から北村健一さん、北村綾香さん、前田聡子さん、前田浩一さん

この暮らしを残したい、伝えていきたいという思いにつき動かされて、活動を開始

長野県北安曇郡小谷村の大網集落は、新潟県糸魚川市との県境に位置する山間の里。住民70人ほどのうち約50人が60歳を超えるが、全国各地の限界集落とは異なり、30~50代の住民14人のほとんどが移住世帯だ。
小谷村の昔ながらの暮らしを残し伝えようと2014年4月から活動する「くらして」の面々も、県外からの移住組。メンバーは、大阪出身の前田浩一さん・札幌出身の聡子さん夫妻と、栃木出身の北村健一さん・兵庫出身の綾香さん夫妻の4人。
「私たちが守っていきたい大網の〝暮らし〟とは、田畑のある昔ながらの景色や、この土地に古くから根づいてきた伝統や文化、つちかわれてきた仕事や知恵など、さまざまです。でも、人のために〝ずく〟が出せる、大網の人たちのあたたかい気質も、同じくらい大切にしていきたい」(聡子さん)
〝ずく〟とは、長野県の方言で「労力を惜しまずに動く・働くこと」をいう。

無限に広がる活動計画 大網は、たくさんの仕事であふれている

2014年6月に「くらして」の活動拠点「つちのいえ」が完成。古民家を改装した二階建ては、大きな台所や清潔なトイレ、お風呂も完備している。外部向けの宿泊施設かと思いきや、サロンスペースでは、移住仲間の食事会や、近所のおばちゃんたちを招いてお茶会を開く日も。「つちのいえ」は、集落内と外部をつなぐアンテナスペースなのだ。

「くらして」の活動は、「つちのいえ」の運営だけではない。たとえば、畑や田んぼでは、綾香さんが中心となり米や野菜をつくる。健一さんは猟に出て、獣肉をもち帰る。自給だけではなく、今後は、米や野菜、加工肉などの有効活用も考えている。男性陣のメインの仕事は林業だ。
「山があって、たくさんの木があるのに、わざわざ海外から輸入した燃料や木材を使って暮らすのってどうなんだろうって。ここで住むからには、私は山の仕事をして生きていきたい。伐採するだけではなく炭や木材といった〝商品〟としても活用していくつもりです」(健一さん)
木材を工務店に卸す計画も、ゆっくりと動きはじめている。

「大網での暮らしそのものが、『くらして』の活動です。畑も田んぼも林業も炭焼きも、もともとここの人たちがしていたこと。そこにはいろいろな知恵や伝統が詰まっているのに、いつの間にか失われつつある。私たちはその〝やらなくなってしまった〟ことを大網の文化として、次の世代に伝えていきたいんです」(聡子さん)
地元の子どもたちを対象とする有料の「学校プロジェクト」も始動。郷土愛や生きる力を育む機会を創っている。

無限の可能性を秘めている「くらして」の活動。ビルもデパートもない山間の限界集落には、驚くほどさまざまな〝仕事〟と幸せであふれていた。

「くらして」の活動拠点「つちのいえ」。今後はここを活用して「仲間を増やしていきたい」という。

小谷の子どもたちを対象とする「くらしての学校」プロジェクト。この日の昼食は、自分たちで炭をおこして魚を焼いたり、ご飯を炊いたり。シチューも手づくりした。地元の子どもたちにとっても新鮮な経験だったようだ。

地元のおじいちゃんの炭焼き現場を見学。

山に入り、力を合わせて伐採作業。単なる自然体験ではなく、小谷村大網地区の生活を体感してもらう目的で開講している。

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