子供の頃からとにかくものを作るのが大好きでした。遊び場といえば自宅にある祖父と親父の仕事部屋。そこで彫金の道具を使って四六時中なにかを作っていたんです。だから、自分としては彫金家を継ごうと考えるのはごく自然なことだったと思います。
でも、親父からは止められました。僕が大学を卒業したのはバブルの全盛期で、就職は完全に学生の売り手市場。一方、彫金の世界は、かつてのように問屋からの注文を待っていればいいという時代ではなくなっていた。いいものを作るだけでなく販路も開拓しなければ食べていけないという状況。親父がやめておけと言いたくなるのもわかりました。でも、なんとか説得して弟子入りしたんです。彫金家になることは、子供時代から僕の人生の大前提でしたから。