就職について具体的に考え始めたのは大学三年生の初め頃でした。それで、その年の終わりには、アルバイト先の古書店に「ここで就職させてください」という相談をしていましたね。そのときは、就職活動から解放されたいという一心でした。古書店業界に就職する場合、大きく分けて二通りの働き方があります。一つは、将来独立するパターン。もう一つは、長く勤めて番頭のような立場になるパターンです。それによって教え方も業務内容も違うからどっちなんだと問われた僕は、何も考えず「独立します」と答えていました。当時は独立がそんなに大変だと思わなかったですし、数十年も働けば独立くらいするだろうという軽い気持ちで。
就職したのはバブルの終わり頃でしたが、千万単位、億単位の高額取引があってびっくりしましたね。一般的に古書というのは、絵画や彫刻などの美術品と比べて動くのが遅いんです。お金持ちの人が、いい家やいい車を買った後にいい美術品を買って、最後の最後に本にたどり着く。景気に遅れて波がやってくるわけです。僕が働き始めたのはちょうど古書業界にとって良い時期でした。
最近は日本経済がずっと良くないので、高額で貴重な古書がどんどん海外流出しているという状態です。図書館や美術館に入ってしまったらもう取り戻せないですからね。日本が文化的にどんどん弱くなっているという気がします。