「染の高孝」は、あらゆるジャンルの染物屋です。型染め、手描き染め、特殊染めなどを組み合わせ、今まで誰も見たことの無い模様を作ったり、今ではもう無くなってしまったものを掘り起こしてオリジナル性を打ち出しています。

男三兄弟で江戸更紗の親方だった親父の工房に入り、兄が社長、僕と弟が職人として後を継ぎました。だけど、一足先に修行を始めていた弟の方が腕が良くなっていたので、僕は早々に江戸更紗には見切りをつけたんです。それで、自分は別の特殊な染め技法を身につけようと。他所で人気の染め技法を調べて色々試した末、手描き友禅を選びました。20代前半の頃です。当時の染物屋は、問屋から注文された商品を作る手間仕事がほとんど。親父の工房では注文された江戸更紗だけやっていれば仕事になっていたのに、僕は自由にさせてもらっていましたね。しかも、問屋も私のわがままを聞いて手描き友禅の注文をくれて、そこそこ仕事にもなりましたし。余裕のある時代だったんでしょうね。

でもその後、オイルショックとドルショックの影響で染物業界に大激震が走った。問屋からの注文が大激減。空前の大不況です。
そこで、「このまま注文を待っているだけでは絶対に駄目だ」と大きな危機感を持った僕は、自分で手描き友禅の新商品を作って発表しようと考え、十人程の仲間と作家活動を開始したんです。ギャラリーを借りて発表会をしたりコンクールに出したり。攻めの商売に変えていった。リスクを背負ってやらない限り仕事にならない状況ですから。やらなきゃ商売を変えるしかないと思って無我夢中で行動しました。

「職人はいいものを作りさえすればいい」という時代はとっくに終わっています。例えば修行期間が十年間だとしたら、最初の三年で基本技術を覚えて、自分のオリジナルを組み立てるのにもう三年。そして最後の四年では、自分の作品をお金にする方法を身につけなければいけないんです。それができない限り修行は終わらない。なのに、未だに十年間コツコツ技術だけを学んでいれば独立して飯が食えると勘違いしている若い人が多いんです。もうそんな時代ではない。市場に受け入れられるオリジナル作品を作れるようになった上で、自分でそれをお金にする方法を開拓していかなければ。僕だって販売のために北海道から沖縄まで全部回りましたよ。職人や作家と言ったって、他の商売と全く変わらない。だから僕のところに来る若い子にはみな、最初にそういう厳しい現実を伝えます。

今の若者は、大事に大事に育てられた子が多い印象ですね。大人からきついこと言われた経験が少ないので、我々が少し強く言った言葉にすごい衝撃を受けるみたい。少し扱い方に困る部分もあります（笑）。でも、「みんなで仲良くてっぺんまで行きましょう」なんて無理なんですよ。いずれ職人として独立したらもっと強烈な世界と渡り合っていかなければいかないわけだから。

そうはいっても仕事は遊び心満点でやることが大事です。力を抜いていい作品を作ることができるのが名人なんだと思いますよ。常に100％だと嫌になってしまうでしょ。長く続けられない。僕なんていつも50%くらいだもん（笑）。遊びの延長線上で発展していかないと駄目。染物職人というのは、一日に何枚染めたのかというスピードで腕が判断されます。毎日コンスタントに同じペースでやるためには、逆説的だけど、いかに手を抜いて楽してやるかってことが大切なんですよ。

そう思うと、修行時代から考え方は全く変わっていないのかもしれないですね。僕、大人になりきってないからね（笑）。大人って年を食って老化しているだけの話で、魂は三歳のままなんじゃないの。ちょっと偉そうに振る舞ってみたりすることもあるけど、中身は思いっきり昔のままですよ。

高橋孝之さん(68)染の高孝（東京都新宿区高田馬場3-9-1）