お客さんの多い日、ムックの前には開店前から行列ができる。年に約3万人という集客数は、周囲がのどかな田園地帯であることを考えれば、驚くべき数字だろう。
開店当初、ムックのほかに雑貨店、ギャラリーと3軒でスタートした西の原の敷地内には、いまでは珈琲豆専門店や焼き物のショップなど個性的な8店舗が並ぶ。
お店を始めてからの数年間は、協力してくれる地元の人たちとの価値観の違いを乗り越える期間でもあった。その違いを一つずつ、ある時は主張を貫き、ある時は謝り、けんかもしながら店を育ててきた。だからこそ、周辺の人たちとともに育てたという意識が強い。
周辺の店との信頼関係も厚い。珈琲豆専門店「イソザキ珈琲Shady」の磯崎健人さんは、岡田さんに信頼を寄せるひとり。店の改装について真っ先に相談したのが岡田さんだった。人の流れ、客の目線、扉をオープンにして店を広く使うコツ……、そのアドバイスは的確だった。同じく敷地内に工房を構える阿部薫太朗さんも岡田さんと同じ時期にこの街を訪れ、いまや波佐見焼の未来を牽引するひとり。CLASKAの波佐見焼シリーズや、HASAMIPORCELAIN、COMMONなど新しいラインのデザインやモデリングを手がける。彼らは岡田さんにとって、これからの波佐見のことを真剣に話し合える仲間だ。
「これから先の十年をどうしていくのか。それが西の原の進化を決めると思うんです」
波佐見へ来たばかりの頃、岡田さんは地元の人たちの親しみやすさに驚いた。「何しよっとね」「ちょっと寄っていかんね」。損得は関係なしに、みなが助け合う「結」の文化が残る町。いま、若手の仲間と話しているのは、波佐見町を10~20代が胸を張って帰ってこられる町にしたいということ。外から人を呼ぶだけではなく、彼らがこの町をもっと好きになれることを考えたい。
「お客さんが増え売り上げは伸びます。でもこれまでに築いてきた地域の魅力やお客さんとの関係を、大切に育てていくことの方が大事」
これから先、何十年もここにいても、自分は「ずっとよそ者だ」という覚悟もある。だが、よそ者だから実現できることもある。そのことを、ムックは訪れる人たちに、気づかせてくれる。